2013年3月12日火曜日

図書紹介『阿武隈共和国独立宣言』


『阿武隈共和国独立宣言』
村雲司 著 現代書館刊 1200円+税

昨年暮れの選挙の結果が覚悟をしていたとはいえ、あまりの数字にすっかり落ち込んでしまった。その国の民度に相応した政府しかもてない、とは幾度も思い知ったことではあるけれど、ずっとつづけてきた「もの申す」行動が無慚に踏みつけられた思いで、立ち上がりにくい年迎えだった。

この国には居場所がない、と絶望的になっていたとき、書店で目に入ってきたのが、「…共和国独立宣言」の背表紙だった。えッ、なんかいい国だったら私も住民にしてもらえないだろうか、と飛びついた。この列島国は、西欧のように国境を走り抜けて脱出する思想がない。学生時代の怠惰が祟って、ナニ語もカニ語もできない。できたとしても、見回すところ是が非でも行きたい国もない。政治や放射能から一切目をつぶって道楽に走るしかない…なんてヤケになっている矢先の「独立宣言」である。著者名をみれば、運動をつづけてきた仲間の一人ではないか。

「独立国」構想のスタートは、新宿駅の「スタンディング」からで、この行動ももう10年になるという。「スタンディング」のことを知らないでいた人にはこの本をぜひ読んでほしい。各地で取り組まれている住民の反権力運動などでも、独自の工夫で生まれた抗議の表現方法を記録や口伝えで知ることができる。真似たり真似されたりして行動を豊かにしてきたものだ。雑踏の新宿駅、かつてベトナム反戦のフォークソングで賑わい、弾圧された忘れられない特別の場所に、ただ黙ってプラカードを持って立つ。1時間と制限された中で立つ。この形を想像するためにもこの書を読んでほしい。毎土曜日、10年だ。

この「スタンディング」の仲間の間から生まれたものに、金曜日毎に行われる「官邸裏行動」がある。「前」ほど知られていないが、官邸にはぐっと近い。ごく少人数で、オマワリのほうがずっと多いくらい。そこで会う「スタンディング」の人や、長年「反原発」をやってきた仲間と、「人数が減ってきたね、私たちはしつこいね」と語り合っている。

肝腎の独立国に関しては、「極秘事項」なのでここでは多くを語らないでおくが、ホンの少し。この国民になるには年齢制限がある。私はそれにはゆうゆう合格する。なにしろ阿武隈は放射能値が高いから、若い者は入国できない。憲法は日本国憲法の第一条を除いたものをそのまま使う、という。国歌は「夢であいましょう」、国旗は「一銭五厘の旗」(国というと、ウタやハタが必要なのかな?)。

胸がすくのは宣言が日本のマスコミ陣を忌避して、「日本外国特派員協会」でおこなわれることだ。このほかにも、「殆どの場合、被害者」であるわれわれの抗議行動を監視、弾圧してきた警察・公安警察に対する怒りや、不審が各所に満ちていて、長い年月、さまざまの行動を懲りずにつづけてきた者どうしに判る怒りがちりばめられている。

結論として、誰かの造る国ではなく、自分で、自分が住みよい国を造るべきなのだ、というのが私が読後到達した地点である。さて……。

(凉) 
反「改憲」運動通信 第8期15号(2013年1月16日発行、通巻183号)

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